おとのば

Patrick Vegeeを残さず食べてみた話。

はじめに

2019年の時点で薄々アルバムの匂いはしていた。それは、11.14大宮でのライブのMCにて斎藤が「(ライブとライブの間の空いた10日間で)めちゃくちゃかっこいい曲を作っていた」と話したからだ。
ライブとライブの間の10日間も曲を作り、2020年に備えていた3人。それが今年9月になり、ようやく明るみになった。

8枚目のアルバム「Patrick Vegee」
細かいところまで世界観が拘られていると思う。そんなパトリックさんのお野菜を私なりに料理したのが本記事である。
良ければお付き合いください。

アルバム全体について

このアルバムが届いた瞬間、

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なんかでかいんですけど……

と思った。自分、一体何を頼んだんだよと突っ込みたくなる大きさの段ボールだったし、中身はB5のコピー用紙もヒヤヒヤしてしまう大きさをしていたのだから。
そして、箱の中までウサギの世界が出来ていた。とにかくかわいい。うさぎ好きにはたまらなかった。

ちなみに、オーディオコメンタリーが想像以上でした。(映像見ている3人が20分くらいに編集されているのかと思ったらライブフルサイズだった!)

アルバム楽曲について

ここからは、各楽曲について語っていきたいと思う。
このアルバムの面白さは、前述の通り2019年には構想を練っていたり、制作をしていたりしたこともあり、UNISON SQUARE GARDENの15年間があちらこちらに散りばめられているところにある。そこにも触れていきたい。

Hatch I need

まず、“Hatch”の日本語訳から。
(陰謀を)企む、目論む、名詞だと陰謀といった意味がある模様。
曲中のコーラスでは「I need Hatch」と歌ってるが、敢えてタイトルを文法無視してこの並びにしたのは、8枚目という言葉に近づけるためだろう。

さて曲はというと、アルバムの最初がベースというのはなかなか珍しいと思う。そういった意味でも新しい挑戦と取れる。新しい挑戦で言うと、“私を”や“I need Hatch”という短い言葉を繰り返すのも新鮮だった。長い文としての繰り返しなら「フィクションフリーククライシス」という前例があるが……。

アルバムの1曲目は、自分の頭の中にいるユニゾンとはわりと離れたところに行きがちである。
それも面白くて、個人的にアルバム1曲目はハマることが多い。

過去作との繋がり
・“賽を振りやがった”→「パンデミックサドンデス」に“その前提で賽を振れ”という歌詞がある。

マーメイドスキャンダラス

前曲最後にて、“I need Hatch”と斎藤の叫びに近い歌が響いて、間髪入れずに“マーメイドの嘘が〜”と歌い始める。
2曲通して「はちまいめ」という言葉が完成する作りになっていた。

この曲は、ロックなアッパーチューンであるが、マイナーキーであるため、どことなく切なさが漂う曲調だ。というのも、マーメイドの話にハッピーエンドは少ない。その歌詞なのだから、「Simple Simple Anecdote」みたいな前向きな曲調では成立しないだろうと思う。

この歌詞もアンデルセンの「人魚姫」のストーリーとリンクするところがしばしば見受けられるので、それに沿って話していきたい。

「人魚姫」の大まかなあらすじは

6人の人魚の末っ子が、15歳を迎えた日にずっと憧れていた人間の住む世界へ行く。その日、王子様が乗っていた船が嵐に遭い、海に溺れそうになっていたため助ける。だが、王子様が目覚めた時に、別の女性がそばにいたため、その女性を命の恩人と思い込む。
人魚はその日以来、王子様のことが気になって仕方がないため、魔女と契約して人間の足を手に入れる。契約というのは、「人魚の美しい声と引き換えであること(後に舌を抜かれる)、王子様と結婚出来なかったら海の泡になってしまう」というもの。人魚は人間と違い、死ぬと海の泡となり、魂が消滅すると物語内で言われている。
人間の足を手に入れた人魚は王子様のところに行くが、声を出せないため、距離を縮めることができない。そうこうしているうちに、王子様に偶然にも、命の恩人と勘違いしている女性との縁談が出てきて、結婚してしまう。
結婚したその晩、人魚の姉達がナイフを持って現れる。「朝日が昇る前に、このナイフで王子を刺し、足に返り血を浴びたら、人魚の尾を取り戻せる、泡にならずに済む」という話だ。さっそくナイフを受け取り、王子を刺そうとするも、愛する王子を殺すことができなかった。人魚はそのまま海にナイフを投げ、自身も飛び込み泡となってしまった。

というものだ。泡となったあとも少し話があるが、本楽曲では泡になるまでの部分のみ関係あるように感じたので割愛します。

真実は泡になる/夢見といて恋焦がれといてどうにもならなかったこと

といった歌詞はこの物語を知ってから見ると、不思議とリンクしているように感じる。物語の中で、人魚が人間になって、王子の近くにいられることを「私は今幸せだ」と感じるシーンもある。
そして、マーメイドの存在を実在するとか幻だとか様々な考えが世の中にはあるらしく、その辺は1番Aメロの歌詞に表れているように思う。

総括して、田淵詞は面白い。心からそう思う。

ところで、マーメイドの嘘ってどういったものなのだろうか?

私の考察だが、マーメイドの中にある王子を愛する気持ちを嘘と思ってしまうことだと思う。

この気持ちが嘘ならば、簡単に王子をナイフで刺して自分は助かる物語になる。そんな物語にしたくないのはマーメイド自身であるから、そうなる前に夜を駆けて海に飛び込む。
嘘が嘘であるのならば、王子に朝日が昇るのだ。

結果的に、マーメイド自身も、王子を愛するマーメイドの気持ちという真実も泡になる。
そんな悲しみを滲ませた曲というように私は感じた。

歌詞以外について見ていくと、とにかくドラムがすごい。インタビューで、1曲フルで録ることができず、分けながらレコーディングしたと鈴木が語っていたが、確かに難易度がかなり高い。しかもBPMが200くらい……。これは「Phantom Joke」も顔負けの難易度かもしれない。それでもライブでどう化けてくるのか、今から楽しみで仕方ない。

落ちサビの

何回でもまた朝日は登るから

の連続三連符も、グチャっとしないところがユニゾンだなと思ったりもする。

どことなく「シグナルABC」感が漂っていることもあり、アルバムで1番好きな曲を敢えて決めるなら、私はこの曲を選ぶと思う。それだけに、ほかにも語りたいことがあるけど、長くなっちゃったのでここまでで……。

スロウカーヴは打てない(that made me crazy)--Inspired by throwcurve

私はthrowcurveというバンドを知らないので、そのバンドの要素あるある!!!なんて言えないので、そこには触れない。

歌詞から見ていくと、まずは先生に変なことを聞いて困らせるんじゃない!とツッコミを入れたい。ネジはおやつに入りません!!!

この歌詞は、ユニゾンのロックバンドとしてのスタンスがちょこちょこ出てくる。

I must doubt "Pop music”/
You may doubt "Rock festival"

という部分である。この歌詞への思いは、受注生産盤のメンバーインタビューにて田淵が語っているので、そこを読めば解決。

過去作との繋がり
・“やばい!やばい!あいつらが言う
somebody,somebody!求めたがる”(他、2番の同じ箇所)
の旋律が「I wanna believe,夜を行く」にも出てくる旋律と同じ。
・野球要素は「ギャクテンサヨナラ」や「crazy birthday」にも登場

ニゾンのバンドとしての姿勢が大きく表れるこの曲の最後の

つまりレイテンシーを埋めています

という歌詞で繋がれた「Catch up,latency」が、ユニゾンの中のど真ん中要素のあるシングルであることも、このアルバムの流れとして綺麗にハマっている。

摂食ビジランテ

アルバムの帯「食べられないなら、残しなよ。」はこの曲の歌詞から来ているもの。
この食べるという表現も、アルバムタイトルのVegeeというワードと繋がりがあるのだから、綺麗に世界が作られていて好きである。

この曲の歌詞は、田淵が世の中に対して怒ってるとか文句言ってるとかではまずないと思う。
世間はこうかもしれないけど、自分には自分の考えがあるから、染められてたまるか!というのがわりと近いのかなって。

曲調としては、静と動の使い分けが「WINDOW開ける」からパワーアップしている。

夏影テールライト

アルバムが予定通り7月に出ていたのなら、季節感ありありで、切なさが最上級に達すると思う。

UNISON SQUARE GARDEN「夏影テールライト」MV

さて、時々現れるユニゾン近すぎず遠すぎずな恋愛ソングがここで登場する。(過去作で言うと「オーケストラを観にいこう」「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」「クロスハート1号線(advantage in a long time)」など)
この辺りの曲に関しては、田淵の中に女の子がいるのでは?と思わされてしまう。

このアルバムは「春が来てぼくら」以外でストリングス等を入れるの禁止という縛りがあるので、この壮大な雰囲気を田淵、鈴木のコーラスによって表現されている。バンドサウンドと声だけでもこのサウンドは出せるんだよというユニゾンのやり方は凄いなと純粋に思った。

過去作との繋がり
・Miss.テールライト→「MR.アンディ」「Miss.サンディ」の仲間登場
・イントロで「流星のスコール」を連想する方は多いかもしれない。
・“仮説を方程式にして”→「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」でも“君の幸せ公式”という数学用語が出てくる。

幻に消えたなら ジョークってことにしといて。

という歌詞で繋がるから「Phantom Joke」がすんなりと入ってくる。
とはいえ、「摂食ビジランテ」と「Phantom Joke」に挟まれるこの曲……
曲の繋ぎとか曲間とかを練りに練ってるから上手くのであって、軽い気持ちでやったらテールライトが浮いてしまいかねない。

世界はファンシー

曲自体は短いのに、歌詞の文字数がかなり多い。どんだけ1小節に文字を詰め込んでいるのだと思うくらいに……。
斎藤のインタビューにて、「デモは田淵が自分でギターを弾いて、自分で歌ってる。デモだともっとBPMが速かった」という話があったので、デモを聴かせて頂きたいと心から思ってしまった曲である。

UNISON SQUARE GARDEN「世界はファンシー」MV

ちなみにファンシーの意味は空想、想像、気まぐれ、思いつき
どの意味が来てもこの歌詞にピッタリハマる。

過去作との繋がり
・冒頭のカウント“5.6 The world is fancy!”→「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」のサビ前のカウントも5から始まる。
・Continue→プログラムcontinued
・My fantastic guitar!→「蒙昧termination」の“れ れ れ れ れ れ れ れ ギター”に続くお前がギター弾くんかい!とツッコミたくなるシリーズ第2弾。後の“抜かりなさすぎる”の後のるの連続もこの曲っぽさはある。
・“担当者が不在”→「ここで会ったがけもの道」と同じ流れ。けもの道では「かけ直してもらえますか」と続くが、この曲では「その間に口実作って以上終了だ」と事を終わらせる。担当者なんていなくても関係ないらしい。
・“一聴じゃ読み解けない”→「mix juiceのいうとおり」で“一聴ではわからない”、「プログラムcontinued(15th style)」で“一聴じゃ難解なんてこと”という歌詞あり。

過去作との繋がりが盛りだくさんであった。

弥生町ロンリープラネット

前曲の“fancy is lonely.”でこの曲に繋がる。

「Phantom Joke」リリース時のインタビューだったと思うが、「ぼくたちのしっぱい」を鈴木が大変気に入ってアルバムのバラード枠にしたいという考えがあったという話をしていた記憶がある。その時に、アルバムのバラードにどうしても入れたい曲があり、田淵から鈴木に丁寧なメールが来たとか。

「ぼくたちのしっぱい」をカップリングにして、田淵の熱い思いからアルバムのバラード枠に落ち着いた曲がこの「弥生町ロンリープラネット」だった。
確かに、後に「春が来てぼくら」を入れるにはこの曲はアルバムにとっても大事なピースになり得る。

ニゾンのバラードは、バラードだがBPMが速い、音を静かにしないという良さがあると思う。「harmonized finale」をバラードと捉えるかは人それぞれだと思うが、あの曲もバラードにしてはかなりBPM速いので、びっくりしちゃう。それと似てる匂いがする。
そして、それぞれの楽器が激しく鳴り合うけれど、バラードとしての世界観を壊さない絶妙なバランスを保っているから心地よいし、飽きない曲になっているのだろう。

個人的好きポイントは“今はもう思い出せそうにないな”の最後のハモリである。

冬の雪解けをイメージしたくなるこの曲の終わりに“そしてぼくらの春が来る”という歌詞から間髪あけずに「春が来てぼくら」のイントロが流れる。
この瞬間の鳥肌は何ものにも変え難い。

Simple Simple Anecdote

「春が来てぼくら」と次の「101回目のプロローグ」がどちらも長めの曲であるため、この曲の短さはエンディングに繋ぐにはちょうどいい感じがする。(長い、長い、長いは疲れちゃう)

ちなみにAnecdoteは逸話、秘話という意味。

この曲は、身構えず軽い気持ちで聴ける曲と思える。“今日はなんとかなるぜモードでいいや”と歌詞通り思える魔法がかかっているように思う。

過去作との繋がり
タイトルのAnecdote→「ラディアルナイトチェイサー」にて“アネクドート風刺おあつらえ”という歌詞がある。

101回目のプロローグ

初めて聴いた時は、これサビ何個あるの?と思ったのを覚えてる。合唱曲の中でも1番2番構成ではなく、違う旋律の連続というパターン、あとはクラシック的なものを連想する作りとなっていた。田淵が「組曲みたいにしたい」としていたことをインタビューで見た時は、そういう事か!とストンと落ちた。“大好きなメロディーがありすぎ”た結果、こういうことになったんだな……と聴く度に思ってしまう。

ちなみに受注生産盤に付いてくるジグソーパズルを連想する歌詞もこの曲で登場する。

手に取ったパズルのピースで

と。
実際は、自粛期間中に斎藤がやって楽しかったから提案したら、採用になったという流れがあったらしいが。

この曲はバンドとファンの関係 というのを田淵は否定していたけど、この付かず離れずの距離感はバンドとファンとしてちょうどいいもののように思う。15周年を経て、バンドとしてのはじまりを歌ってる感じもする。
時々、全然聞いてないし、全然好きじゃないとか言っちゃう、そんなよく分からんスタンスでも、君(≒バンドを見てるファン)だけなら、今後のバンド人生の日々を分かち合いたいし、同じ歩幅でいるし、幸せになる準備だってしてる。

基本的にUNISON SQUARE GARDENが用意する発表は、世間の大勢の人に見てもらいたいです!というものではなく、物好きと呼ばれるファンに真っ直ぐ向けてきたものばかり。
15周年のような毎度毎度大きな約束(ライブとか新譜とか企画とか)を用意してもなく、小さな約束の積み重ねでちょうどいい温度感、距離感を保ち続けているように思う。

過去作との繋がり
・“4年ぐらいは後にするよ”→「10% roll,10% romance」にて似た歌詞あり。
・“世界は七色になる!”→「フルカラープログラム」
・魔法→「シャンデリア・ワルツ」他、多数登場

ニゾンにおける魔法という言葉は偉大である。
CIDER ROAD」にて“分からずやには見えない魔法”を初めてかける。「MODE MOOD MODE」にて“分からずやには見えない魔法をもう一度”かけてくる。
今作は、前作でかけてきた魔法が解けるまでの余韻を楽しむもの。

きっと次回作は、解けた魔法をまたかけてくれるかもしれない。

後書き

ということで、このアルバムを聞きながら長々と書いてみた。
私が思うに、曲順通りにしっかり聴きたいアルバムの最上級を突いてきたなという印象だった。それくらいに流れが作り込まれている。
そして、所々に散りばめられたUNISON SQUARE GARDENの15年間を見つける度に嬉しくなっちゃうのも上手く仕掛けられてる感じがした。

今思うのは、早くアルバムツアーができる世の中になってほしいということ。
生の音は格別だからね……

そんなことを思いながら、今日もまた「Patrick Vegee」を頭から聴くのです。